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あなあき もじえほん『かんじ3』

下村昇・作 / 冬野いちこ・絵 / あかね書房・刊 / 1100円



文字を知り、本に親しむ子は幸せです


                             現代子供と教育研究所・下 村  昇

穴あき文字絵本「かんじ1」では、幼児が日常の生活の中で、目に触れ耳にする言葉の中から、漢数字、曜日、色、時間、方角、季節、気象などの字を扱いましたが、「かんじ2」では、人や動物、植物、鉱物を中心にして四十六文字を取り上げました。これらの字も名詞を主として選んでありますので、幼児にもなじみの深いものばかりです。
 そして本書「かんじ3」では、歩く・走るなどの動作を表す言葉や、高い・長いなど形容詞にもことばを広げてみました。しかし、ここで取り上げた四十六文字は漢字とはいっても特別なものではなく、上下・左右・前後など、全てが常日頃子どもがなんの抵抗もなく使っている「言葉」なのです。
 わたしたちが話をするときは、その言葉が漢字で書き表す言葉であるか、ひらがなで書き表す文字であるかなど問題にもせず使っています。文字は本来、それらの話し言葉を文または文章として書き表すときの道具・手段ですから、話すときに問題にしないのは当然のことです。しかし、書くとなると急にクローズアップされるのが漢字です。現に一年生になると八十字、二年生で二百四十字の漢字が読めてそのだいたいが書けなければならないのです。昨日まで幼稚園児だった子どもが、一夜明けると一年生です。一夜明けて小学生になったからといって、急に文字が書けるようになるということはありません。文字を読んだり書いたりする素地は、幼児のころの言語生活にあります。
 幼児のころ、ひらがなばかりみて育った子は、ある言葉を文字に書き表そうとしても、今まで見慣れた文字しか思い出しません。ウシを「うし」とひらがなで書かれた本ばかりみて育った子どもは、自分が書こうとしたときに思い出す文字が「うし」という平仮名なのは当然のことです。反対にウシを「牛」という漢字でみて育った子が思い出す字形は「牛」なのです。この両者の違いは先々とても大きな違いになって表れます。dふぇすから、これから漢字で書くべき字は漢字でみせようというわけなのです。
 今、お宅のお子さんは絵本を読んでもらい、絵本で話し合い、絵本から字面に表れないいろいろなことを発見し、そこに書かれている文字の違いに気づく年代です。そうした親子の関わりの中で、読書生活の楽しさや豊かな感受性などを磨いているのです。いろいろな種類の絵本を与えてください。文字の持つ力の不思議さ、文字を知る喜びを体験していくことでしょう。文字はことばを広げます。言葉は知識や知恵を 深めます。そうした意味で文字に親しむことの好きな子はそれだけ幸せな子だといえましょう。


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